・国が来年度(令和9年度)、部活動の地域展開にいくら使おうとしているのか
・今年度までの予算と「何が」変わるのか
・国の予算メニューを先取りして、すでに課題を解決している市町村の実例
2026年8月末、文部科学省が令和9年度の概算要求(=来年度予算の「要求書」)を公表しました。その中で、部活動の地域展開に関する予算は155億円。今年度の当初予算57億円と比べると、約2.7倍という大幅な増額要求です。
「155億円」と聞いてもピンとこないですよね。でも実はこの要求、金額の大きさよりも「お金の出し方」が変わろうとしていることのほうが、現場にとっては大きな意味を持ちます。この記事では、公表された一次資料(スポーツ庁・文部科学省の概算要求資料)をもとにポイントを整理しながら、国のメニューを先取りする形ですでに課題を解決している市町村の実例もあわせて紹介していきます。
※この記事の数字はすべて「概算要求」、つまり文部科学省が財務省に出した要求段階のものです。年末の政府予算案の決定までに減額されるのが通例なので、「この金額で決まった」わけではない点にご注意ください。
まず全体像:155億円の中身
部活動の地域展開関連の要求額155億円は、運動部(スポーツ庁)と文化部(文化庁)の合計です。内訳を今年度予算と並べてみます。
| 項目 | 令和8年度予算 (今年度) |
令和9年度 概算要求 |
|---|---|---|
| 運動部(スポーツ庁) | 49.8億円 | 120.2億円 |
| 文化部(文化庁) | 約7億円 | 34.3億円 |
| 合計 | 57億円 | 155億円 |
運動部だけ見ても49.8億円→120.2億円と2.4倍。吹奏楽や美術など文化部側は約5倍と、伸び率ではさらに大きくなっています。国が「地域展開を本気で全国に広げる」姿勢を予算の形で示した、と読んでよい数字です。
いちばん大きな変化は、お金の「出どころ」
実は、今年度も国は部活動の地域展開にそれなりのお金を使っています。ただしその出し方が少し変則的で、当初予算49.8億円に加えて、補正予算(年度途中で追加で組む予算)で57.7億円を積む「二段構え」でした。コーディネーターの配置や人材バンクの設置、自治体への伴走支援といったメニューは、実は補正予算のほうに入っていたのです。
補正予算は「その年限り」のお金です。来年も同じ額が付く保証がないため、自治体やクラブの側は「この事業、来年度も続けられるのかな……」という不安を抱えたまま計画を立てることになります。
令和9年度の要求では、この補正頼みだったメニューをまるごと当初予算に取り込む形になっています(120.2億円 ≒ 今年度の当初49.8億円+補正57.7億円の合算規模)。もし要求どおり認められれば、地域クラブの体制整備や困窮世帯への支援が「毎年続く前提のお金」に変わるということ。複数年の計画が立てやすくなるという意味で、これが今回の概算要求のいちばん大きなポイントだと考えています。
家庭にいちばん関係するのは「参加費の支援」
保護者の方に直接関係するのが、経済的に厳しいご家庭の生徒への支援です。地域クラブ活動の参加費や保険料を補助するメニューで、負担割合は国が2分の1、都道府県・市区町村が2分の1。地域展開関連の補助メニューの多くが「国3分の1」なのに対して、ここだけは国の負担割合が高く設定されています。
「会費が発生して家庭の負担が増えるのでは」という心配は地域展開につきものですが、実は国の予算を待たずに、独自のやり方で手当てを始めている自治体がすでにあります。
地域クラブの月額会費は2,800円。事務局運営費は市が負担して会費を抑えたうえで、経済的に厳しい家庭には就学援助制度で会費を援助する仕組みを整えています。種目も半年で6種目から12種目(文化部を含む)へ倍増しました。
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また、長崎県大村市も令和8年度からの全6校での実施にあわせて、経済的困窮世帯へ市が費用の一部を支援する方針を打ち出しています。国の「国2分の1」メニューが恒常化すれば、こうした自治体独自の支援が全国に広がる後押しになるはずです。
指導者不足への手当ても厚くなる
地域展開の現場で必ず出てくる悩みが「教える人がいない」。今回の要求には、指導者確保に関するメニューが複数入っています。
- 小学校の体育専科教師などの活用が「本格メニュー」に昇格 — 今年度までは実証事業(お試し)の一テーマでしたが、来年度要求では独立した補助メニュー(国10分の10の定額補助)になりました。学校の先生が兼職兼業で地域クラブの指導者になる道筋を、国が本格的に整備する形です。
- 部活動指導員の配置支援は約1万7千人規模 — 運動部13,620人・文化部3,700人の計17,320人分の配置を支援する計画です。
- 大学生が卒業後も地域の中学生を教え続ける仕組みづくり — 若い指導者の定着を狙ったメニューも引き続き盛り込まれています。
この「指導者をどう集めるか」も、一歩先を行く市町村があります。
「種目を決めてから指導者を探す」のではなく、先に指導者人材バンクを整備して24名の登録を集め、登録が最も多かったサッカーから地域クラブを発足させました。国が体制整備のメニューに掲げる「人材バンクの設置・運用」を、順番の工夫で成功させた好例です。
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大学生の活用では、茨城県利根町が町内の日本ウェルネススポーツ大学と連携し、大学が学生指導者の派遣・管理まで担う体制を構築。国が要求に盛り込んだ「大学生が地域の指導を担う仕組み」を、すでに形にしている例といえます。
用具庫やスマートロックまで:施設まわりの支援
細かいところでは、地域展開に必要な公立中学校の施設の整備・改修(用具保管の倉庫、スマートロック設置に伴う扉の改修など)への支援も明記されています。地域クラブが学校施設を使うときの「鍵の受け渡し、誰がやるの問題」「用具どこに置くの問題」は、現場あるあるの筆頭です。
この「鍵問題」を数年前に解決してしまった自治体があります。
令和5年度に市内全ての学校体育施設へスマートロックを導入し、鍵の貸し借りをクラウド管理システムで一元化。従来は利用のたびに鍵を借りに行く必要があった指導者の負担を大幅に軽減しました。国の概算要求に「スマートロック設置に伴う扉の改修支援」が明記される前から動いていた先行例です。
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また、関連する予算として体育・スポーツ施設整備(学校施設環境改善交付金など)も28億円→80億円へ大幅増の要求。地域クラブ活動用の用具庫等の整備もこの対象に含まれています。
これからのスケジュール
今後の流れはこうなります。
- 2026年末:政府予算案の決定(概算要求から減額されるのが通例)
- 2027年春:国会審議を経て令和9年度予算が成立
- 令和8〜10年度:「改革実行期間」の前期。休日については、この期間内に原則すべての部活動で地域展開の実現を目指すのが国の方針です
- その後:中間評価を経て、令和11〜13年度の後期へ
つまり令和9年度は、改革実行期間3年間の「まんなかの年」。ここでどれだけ予算が確保できるかが、休日の地域展開が全国で実現するかどうかの分かれ目になります。年末の予算案が出たら、この記事も数字を更新する予定です。
まとめ:国のメニューには、すでに「答え合わせ」がある
今回の概算要求から読み取れるのは、国の予算が「モデル事業でお試し」の段階から「全国で毎年続ける」段階へ移ろうとしていることです。そして今回見てきたように、国が予算メニューに掲げた課題——参加費の負担、指導者の確保、鍵や用具の管理——には、すでに解決してみせた市町村が全国にあります。これから取り組む自治体・クラブにとっては、予算の行方を待つだけでなく、こうした先行事例から設計を学べる段階に入ったともいえます。
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