【事例】熊本県合志市の部活動地域展開「学校とまちの部活動」 ─ 年1億838万円の収支ギャップを答申で公開
・4パターンの比較から「学校とまちの部活動」を選んだ合志市の意思決定過程
・指導者謝金1,650円/時で全53部を運営した場合の収支ギャップ1億838万円の内訳
・指導者が謝金を自分で設定し事務局がマッチングする人材バンクの仕組み
| 自治体名 | 熊本県合志市 |
|---|---|
| 人口規模 | 約6.6万人(65,715人・2026年7月末時点) |
| 中学校数 | 4校(合志中・西合志中・西合志南中・合志楓の森中)/部活動53部・入部登録者は全生徒の64%(2025年6月現在) |
| 運営形態 | 総合型地域スポーツクラブ連携型(合志市と総合型地域スポーツクラブが連携し、事務局を「クラブこうし」に置く) |
| 対象競技 | 市内4中学校の全53部(スポーツ系・文化系)。将来はアーバンスポーツ等の新種目も検討 |
| 保護者負担額 | 令和6年度実績の受益者負担は校納金4,912,500円・月謝23,890,600円(受益者負担の在り方を今後検討) |
取り組みの概要
合志市は、令和5年12月に「合志市中学校部活動地域移行準備委員会」、令和6年10月に「合志市中学校部活動地域移行検討委員会」を立ち上げ、令和8年3月に「中学校部活動地域展開答申 ─ 合志市立中学校における『学校とまちの部活動』の在り方」をまとめました。答申は令和8年5月27日に教育長へ手交されています。
市には中学校が4校あり、熊本市のベッドタウン化や大型企業の進出により、今後10年間は児童生徒数の増加が見込まれるという全国的には珍しい条件を持ちます。それでも部活動の維持は難しく、令和7年6月時点で部活動数は53部、入部登録者は全生徒の64%(スポーツ系57.5%・文化系8.7%)である一方、指導にあたる教職員のうち競技経験者は36.5%、未経験者は63.5%という実態が答申で示されました。
検討委員会は令和6年度の第2回会議で、市が目指す方向性として4つのパターンを提示して協議しました。①現行の部活動の継続、②部活動を週2回に縮小して継続、③中学校の部活動を完全に廃止、④「学校とまちの部活動」の4案です。協議の結果、市は教師の関わりの重要性を鑑み、パターン④「学校とまちの部活動」を目指す方向性としました。学校と地域と行政が連携協力のもとで推進し、サークル的内容から高い競技志向まで多くの形態が共存できること、教職員が関わることで生徒との信頼関係が継続すること、システム構築費を公費、個人に還元される謝金と消耗品費を受益者負担とすることで公平性を担保できることを理由に挙げています。
特徴的な取り組み
- 運営コストを試算し、収支ギャップをそのまま公開: 歳入は受益者負担(校納金4,912,500円+月謝23,890,600円)と行政支援(補助金3,598,000円)の計32,401,100円。歳出は活動費32,401,100円、事務局人件費3,000,000円、部活動アプリのシステム構築費1,536,480円(990円×1,552人)とメンテナンス費100,000円、指導者謝金100,742,400円の計137,779,980円。差額はマイナス108,378,880円と明記し、「今後、受益者負担を増やすことや基金や企業献金、ふるさと納税等からの歳入を考えていく必要がある」と課題を隠さず書いています。
- 指導者謝金を単価と配置パターンで細かく試算: 指導者は常時2名以上配置(顧問・副顧問)、指導費単価は1,650円/時(熊本県立学校職員の給与に関する条例第12条・13条の休日の部活動勤務手当を参考)。平日2時間・休日4時間で計算し、「休日のみ」なら全53部で33,580,800円、「平日4日+休日」なら100,742,400円と、配置パターンごとに全部活配置時の年間総額を並べています。
- 指導者が謝金を自分で設定する人材マッチングシステム: 「地域指導者の人材確保が困難」「謝金の設定と予算の確保が難しい」という2つの課題に対し、①人材バンクに登録、②地域指導者が謝金を自由に設定する、③事務局による指導者への面接、部員やその保護者とのマッチングを行う、という3ステップの仕組みを構想しました。保護者等が納得のうえでマッチングが行われるため、地域展開が円滑に行われ経費削減も期待できるとしています。
- 地域サポーターバンクを先行して設置: 検討委員会で重要課題となった指導者確保を進めるため、令和7年12月に「合志市中学校部活動地域サポーターバンク設置要綱」を公布し、ホームページ等で広く募集を開始しました。サポーターは活動曜日・時間・謝金を自由に設定でき、事務局との相談のうえ条件を決定して適合者が指導に従事します。
- 事務局を総合型地域スポーツクラブに置く: 基本方針Ⅲ(指導体制)で「合志市と総合型地域スポーツクラブが連携して推進していくために、事務局をクラブこうしに置く」と明記し、行政と既存クラブの役割分担を先に決めています。
- 4段階のStepで工程を分解: Step1(R7〜R9)は休日のみ地域サポーターによる指導、または1部活に1人の地域サポーター配置。Step2(R8〜R10)は休日に加え平日の地域サポーター指導を開始。Step3(R8〜R13)は楽しむことを目的とした週1回程度の活動の場を設置し、アーバンスポーツ等の新種目を検討。Step4(R10〜R13)は休日のみ教職員への謝金発生(兼職兼業)とし、休日の地域展開を完成させる、という構成です。
- 4案の比較表をメリット・デメリット・課題で公開: 完全移行/一部移行(校内種目)/一部移行(モデル校)/移行しない、の4手法を表で比較し、それぞれのメリット・デメリット・課題を整理した資料を答申に収録しています。
課題と解決策
| 課題 | 解決策 |
|---|---|
| 指導者謝金が歳出の大半を占め、歳入との差が年間約1億838万円に達する | 指導者の配置パターンを組み合わせて総額を抑える。学校部活動を継続しつつ休日のみ外部指導者を派遣するパターンや平日2日派遣するパターンなど、複数の型を組み合わせる。あわせて基金・企業献金・ふるさと納税からの歳入を検討する |
| 地域指導者の人材確保が困難で、謝金の設定と予算の確保が難しい | 人材マッチングシステムを構築。人材バンクに登録した地域指導者が謝金を自由に設定し、事務局が面接と部員・保護者とのマッチングを行う。令和7年12月に地域サポーターバンク設置要綱を公布して募集を開始した |
| 指導にあたる教職員の63.5%が競技未経験者で、専門的な指導体制が確保できない | 「熊本県地域クラブサポーターバンク」等の人材バンクを活用して指導者を確保し、主担当・副担当等の役割分担を持った複数指導体制を構築する |
| 完全移行では責任の所在があいまいになり、保護者負担も増える | 4パターンを比較検討したうえで、教師の関わりの重要性を鑑みてパターン④「学校とまちの部活動」を選択。教職員が関わることで生徒との信頼関係を継続する |
| システム構築費と個人への謝金の負担区分が不明確 | システム構築費は公費、個人に還元される謝金と消耗品費は受益者負担とすることで公平性を担保する方針を答申で明示 |
成果・効果
合志市は令和7年度で「学校とまちの部活動」の制度設計を完了し、必要経費を令和8年度当初予算に計上しました。令和8年度にはさらに指導者謝金や施設使用の責任等について細部にわたり合意形成を図り、令和9年度から準備が整った部活動から順に移行するとしています。
令和7年度は第4回から第5回の検討委員会で各中学校の部活動視察および協議を行い、現状を把握・分析・整理して「学校と街の部活動」の具体的方向性を決定。第6回から第7回では、謝金等の全費用(支出)と財源(収入)の算出、合志市人材バンク、モデル校(部)の選定、令和8年度のスケジュール、答申について検討しました。
答申は「今後も地域展開に関しての協議を継続しながら、国や県の動向を注視し、学校や地域の理解を深めつつ、教職員の働き方改革を念頭に置き、子どもたちにとってより良い、持続可能なスポーツ・文化活動となるよう更なる検討が必要である」と締めくくられています。
出典
→ 原文: 合志市「中学校部活動の地域展開について」
→ 原文: 合志市中学校部活動地域移行検討委員会「中学校部活動地域展開答申 ─ 合志市立中学校における『学校とまちの部活動』の在り方」(令和8年3月・PDF)
→ 原文: 合志市「合志市中学校部活動地域サポーターバンク」
→ 原文: 合志市「合志市中学校部活動地域展開検討委員会」
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