【事例】広島県安芸高田市の部活動地域展開 ─ 安芸高田HCに男女ハンドボール部移行・全国大会出場・顧問2人体制から1人体制へ
・安芸高田市が大会出場・引率まで完全に地域クラブで担う徹底移行モデル
・教員免許保持指導者選定で専門性と教育性を両立した人選
・顧問2人体制から1人体制への変更で実現した目に見える働き方改革
| 自治体名 | 広島県安芸高田市 |
|---|---|
| 人口規模 | 約2.7万人(26,539人) |
| 中学校数 | 6校(うち5校が単学級/生徒数600人) |
| 運営形態 | 地域スポーツ団体等運営型(体育・スポーツ協会運営型)/安芸高田HC(安芸高田市ハンドボール協会連携) |
| 対象競技 | 男女ハンドボール(甲田中学校拠点/令和5年度実証) |
| 保護者負担額 | 月額3,000円(年額36,000円)/別途スポーツ安全保険:生徒800円・指導者1,850円 |
取り組みの概要
広島県安芸高田市は中山間地に位置する人口約2.7万人の市で、6中学校のうち5校が単学級という小規模化が進んでいます。中学生数は2013年の689人から2023年に600人へと10年で約100人減少。チームスポーツでは単独校での大会参加が難しい競技も多く、合同チーム編成で部活動を維持する状態でした。市は令和5年度の地域スポーツクラブ活動体制整備事業で、甲田中学校の男女ハンドボール部の週休日活動を地域スポーツクラブ「安芸高田HC」に移行。ハンドボール協会と連携し、甲田中ハンドボール部出身の専門指導者2名(教員免許保持者)を確保しました。中体連主催の県大会・中国大会・春の全国中学生ハンドボール選手権大会への出場・引率も全て安芸高田HCとして実施するという、移行モデルを実装しました。
特徴的な取り組み
- 大会出場・引率も全て地域クラブで実施: 県中体連の大会についても、安芸高田HCとして参加・引率・指導を全て地域指導者が担当。中学校教員は県の専門委員長として役員参加はしたが、引率・指導はせず、中国大会・全国大会への帯同もなし。「地域クラブ=練習用、学校部活=大会用」という二重構造を完全に回避。
- 顧問教員2人体制を1人体制に変更し働き方改革: 移行前は男女ハンドボール部に各2名の顧問教員(男女合計4名)を配置していたが、地域移行後は1人体制に変更。教員の働き方改革に直結する明確な効果を実装。
- 教員免許保持指導者で「教育の一環」を担保: 安芸高田HCの指導者2名は教員免許状を持つ専門コーチ(JOC広島県選抜男子監督経験者・筑波大学キャプテン経験者など)。「地域クラブだから教育性が損なわれる」という保護者・教員の懸念に対し、教員免許保持者を充てることで「教育の一環としての地域スポーツクラブ運営」を実装。
- 大会成績で実証効果を可視化: 令和5年度の実証期間中に、男子は中国中学校ハンドボール大会出場、女子は全国中学校ハンドボール大会出場・春の全国中学生ハンドボール選手権大会出場・広島県予選優勝という競技成績を達成。「地域移行で部活動が弱体化する」という不安に対する明確なアンサー。
- 満足度調査で生徒66.7%が「大変満足」: 令和5年10月の満足度調査で、生徒の66.7%が「大変満足」、教職員の66.7%が「満足」と回答(保護者は「大変満足」33.3%・「満足」25%・「どちらともいえない」41.7%)。生徒の満足度が教員・保護者を上回る結果。
課題と解決策
| 課題 | 解決策 |
|---|---|
| 5校が単学級・チーム編成困難な部活動が多い(バスケ・バレー・サッカー・ハンドボール・ソフトボール) | 合同チームで大会参加を継続。ハンドボール部から地域クラブに先行移行し他種目展開のモデル化 |
| 地域指導者が市外在住で教員兼職兼業が難しい | 2022年アンケートで「地域移行後も関わりたい」教員はわずか9% → 兼職兼業ガイドライン作成を令和6年度以降に整備予定 |
| 地域スポーツクラブが少なく生徒ニーズに応えにくい | 市ハンドボール協会と連携し、教員免許保持専門指導者2名を確保。広報活動(チラシ・ポスター)で甲田中以外からの参加も促進 |
| 市域広域・端は島根県境で活動場所までの移動課題 | 甲田中学校体育館・向原高等学校体育館を活動場所に併用。自転車・保護者送迎で対応 |
| 大会出場費・引率費の保護者負担増の懸念 | 令和5年度は実証事業として市負担。月会費3,000円は「個人負担軽減を基本に運営」と方針明示 |
成果・効果
令和5年度の実証期間で甲田中男女ハンドボール部を完全に安芸高田HCへ移行し、男子は中国大会・女子は全国大会出場という競技成績を達成しました。中学校教員は顧問2人体制から1人体制に変更され、引率・指導は全て地域指導者が担当することで明確な働き方改革を実現。生徒の66.7%が「大変満足」と回答するなど、地域移行への高い満足度も確認されました。一方で「地域移行後も関わりたい」教員が9%にとどまるという2022年アンケート結果は、人材の持続性確保の課題として残されています。
出典
→ 原文: 広島県・令和5年度地域スポーツクラブ活動体制整備事業 成果報告書(スポーツ庁)
💡 部活動地域展開ナビの視点:ここがポイント
安芸高田市の事例で最も注目すべきは、「大会出場・引率まで完全に地域クラブで担う」という移行の徹底度です。多くの自治体は「練習は地域、大会は学校」という分離戦略をとり、結果として教員の引率業務だけが残って働き方改革効果が薄まる失敗パターンが散見されます。安芸高田市は中体連の大会も安芸高田HCの名前で参加し、教員は専門委員長として運営側にだけ関わる仕組みを実装しました。この明確な役割分離により、顧問2人体制を1人体制に変更するという目に見える働き方改革効果を実現しています。
もう一つ重要なのが、「教員免許状保持者を地域指導者に充てる」という人選の慎重さです。地域移行で最も警戒される懸念は「教育の一環としての部活動の意義が損なわれる」「指導者の教育的視点が不足する」という点。安芸高田市はJOC広島県選抜監督経験者・筑波大学キャプテン経験者で、いずれも教員免許状を持つ指導者2名を選定することで、専門性と教育性を両立しました。生徒66.7%が「大変満足」、女子チームが全国大会出場という結果は、専門性と教育性を兼ね備えた指導者の選定が決定的に重要であることを示しています。
📋 他地域が導入する際の想定ハードルと解決策
「教員免許保持者を地域指導者に充てる」モデルの最大の制約は、適任者の絶対数の少なさです。安芸高田市の場合、ハンドボール部出身の元教員(または現役教員の兼職兼業)2名というニッチな人材を確保できたことが成功要因ですが、これを全種目・全自治体で再現するのは現実的に困難です。導入を検討する自治体は、まず「市内で過去にトップレベルの実績を持つ卒業生(プロ・全国大会経験者)が現在も地域に残っているか」「JOC選抜・大学キャプテン等の指導歴を持つ住民がいるか」という人材棚卸しを行い、該当者がいる種目から段階的に始めることを推奨します。また、安芸高田市自身が「2022年アンケートで地域移行後も関わりたい教員は9%だけ」という結果を公表しているように、教員兼職兼業の意向は思った以上に低いのが現実です。これは「教員のボランティア前提の制度設計が破綻する」というシグナルでもあるため、最初から教員に頼らない地域指導者プール(プロ経験者・退職者・大学生指導者)を主軸に据えた設計を組むことが持続性の鍵になります。
CONSULTING / 専門家に相談
受け皿団体の組織整備・経営について
専門家に相談しませんか?
設立手続きの進め方・行政との調整・資金計画など、
総合型地域スポーツクラブ特化のコンサルティングをご提供しています。