【事例】岩手県西和賀町の部活動地域展開 ─ 町が受け皿となり9部活を全て移行・年会費6,000円の収支試算を公開
・受け皿となる総合型クラブがない町が、町自身を暫定の運営団体にして9部活を先行移行した進め方
・年会費6,000円(月500円)で収支が均衡する根拠を、保険料・消耗品費から積み上げた試算の中身
・平日と休日で担当課が分かれる窓口分断への対処として地域スポーツコーディネーターを置いた効果
| 自治体名 | 岩手県西和賀町 |
|---|---|
| 人口規模 | 約0.47万人(4,659人) |
| 中学校数 | 2校(湯田中学校・沢内中学校/生徒85人) |
| 運営形態 | 市町村運営型(地域団体・人材活用型)/西和賀町が運営団体 |
| 対象競技 | 野球、男子ソフトテニス、女子バレーボール、女子卓球、女子ソフトボール、柔道、バドミントン、スキー(冬季特設) |
| 保護者負担額 | 無料(会費・保険料とも町が負担。令和6年度実証時点) |
取り組みの概要
岩手県西和賀町は、人口4,659人・中学校2校・生徒85人・部活動9部という全国でも最小規模に近い自治体です。令和6年度にスポーツ庁「地域スポーツクラブ活動体制整備事業」の実証事業に2年目として取り組み、湯田中学校・沢内中学校の9部活すべてを休日の地域クラブ活動へ移行しました。
同町の際立った特徴は、地域側に受け皿となる団体が存在しなかったことです。報告書は「地域の受け皿となりうる総合型地域スポーツクラブが西和賀町にはなく、現状町が地域スポーツクラブの受け皿となって活動している。体育協会やスポーツ少年団では受け皿になるような体力はないため総合型地域スポーツクラブの設立が急務となっている」と率直に記しています。そこで町は「湯田スポーツクラブ」「沢内スポーツクラブ」の2クラブを西和賀町自身が運営団体となって立ち上げ、平日の指導を担っていた外部指導者を部活動指導員として配置したうえで休日の地域展開を実施しました。
並行して令和6年6月・7月・11月に「総合型地域スポーツクラブ設置検討委員会」を3回開催し、令和7年度中の設立を目指した準備を進めています。9月には盛岡市・平泉町の先進地を視察し、法人格を持つクラブの設立や指定管理制度を活用した拠点施設の確保について情報を収集しました。
特徴的な取り組み
- 町自身が運営団体になる「暫定的な受け皿」方式: 総合型地域スポーツクラブが設立されるまでの間、町が運営団体を引き受けて9部活の地域クラブ化を先行させました。受け皿の完成を待たずに移行を始めた判断です。
- 受益者負担額を数式で公開: 報告書に、持続的な運営に必要な受益者負担額の試算が明示されています。保険料は中学生85人×スポーツ安全保険880円=74,800円、各クラブへの消耗品費は9クラブ×20,000円=180,000円で合計254,800円。これに対し年会費6,000円(月500円)×85人=510,000円で、差引255,200円が残る計算です。会費の妥当性を住民に説明できる形で公開しています。
- 平日の担当課と休日の担当課が分かれている問題を明記: 「平日の担当が学務課、休日の担当が生涯学習課と別れていることからノンストップで相談や依頼ができる状況ではなく、指導者、保護者、学校担当者にとっても不親切な状況が続いている」と、行政側の窓口分断を課題として文書に残しました。町はその後、地域スポーツコーディネーターを事務局として配置し、円滑な情報交換ができる体制を整えています。
- 指導者だけでなく保護者にもインテグリティ研修: 「子どもの成長を支援するスポーツ指導者の在り方について」をテーマに、スポーツハラスメント・マルトリートメントを扱う研修を実施。保護者への実施は初めてでしたが、指導者だけでなく保護者にも必要だと感じてもらえたと報告されています。
- 冬季特設スキーを含む種目編成: 豪雪地という地域特性を活かし、沢内スポーツクラブに冬季特設のスキーを組み込んでいます。
課題と解決策
| 課題 | 解決策 |
|---|---|
| 地域に受け皿となる総合型地域スポーツクラブがなく、体育協会やスポーツ少年団にも引き受ける体力がない | 町が暫定的に運営団体となって9部活を先行移行しつつ、総合型地域スポーツクラブ設置検討委員会を3回開催して令和7年度の設立を目指した |
| 単独校では大会に出られない部活動が出ている(両校の野球部は新人戦で合同チーム、沢内中ソフトボール部は北上市と広域連携) | 少人数で実施できる種目の指導者確保を進め、種目数の減少に対応したスポーツ教室を次年度実施することを決定した |
| 平日は学務課、休日は生涯学習課と窓口が分かれ、指導者・保護者が相談先に迷う | 地域スポーツコーディネーターを事務局として配置し、部活動指導員と学校の調整・各種会議・指導員研修の開催を一元的に担う体制にした |
| 人口減により指導者の確保が難しい。指導者バンクも設置されていない | 当面は体育協会等と指導者情報を連携し、総合型地域スポーツクラブ設立時に人材バンクの設置を検討する。単位協会やスポーツ少年団だけでなく地域のスポーツ愛好家まで対象を広げて発掘する |
| 2つの中学校の間に距離があり、合同練習の移動に保護者の協力が不可欠 | 移動に関するてこ入れが必要と総括に明記し、学校・指導者・保護者への伴走支援の検討課題に位置付けた |
成果・効果
令和6年度は9クラブすべてが部活動からの移行で、地域クラブ側の新規創設種目はありません。指導者8人・運営スタッフ9人の体制で、各種目月4回程度、休日に1〜2回、9時から12時の時間帯で活動しました。参加会費・保険料とも無料とし、各クラブに2万円の消耗品費補助を行っています。
教員の負担軽減については、湯田中学校で平均64時間・20回、沢内中学校で平均47時間・12回の活動時間と回数が削減されたと報告されています。町は「指導者が少ない中でも成果は出ていると感じている」と評価しました。
部活動指導員として活動している8名の平均年齢は43歳で、JSPO公認スタートコーチの資格保有者が含まれます。年2回の研修を実施して指導内容の質の向上に努めており、スポーツインテグリティ研修は指導者・保護者双方の知識向上につながったとしています。
一方、町は財源面の限界も明記しています。「これまで、教員が担ってきた部分を責任をもって受託するためには、安定的に運営を行うための財源が必須であり、受益者負担のみで確保することは非常に難しいことから、財政面での支援が必要と考える」とし、指導者謝金は月会費だけでは賄えないため各種助成制度と町からの支援を併用する必要があるとしています。また「西和賀町には文化部がないことからやりたくてもできない現状がある」として、社会人サークルとして活動している吹奏楽クラブを受け皿として調整する方針も示しました。
出典
→ 原文: スポーツ庁「令和6年度 地域スポーツクラブ活動体制整備事業 成果報告書 岩手県西和賀町」(文部科学省サイト掲載)
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