【事例】岩手県矢巾町の部活動地域展開 ─ 種目の事情を4パターンに分けた推進計画と部活動加入率92%の現実
・休日の大会・遠征の多さで種目を4分類し、移行手順を分ける推進計画の設計方法
・部活動加入率92.0%の町が令和10年度を到達目標に置いた、年度別の体制整備スケジュール
・指導者決定後に顧問と並走する引き継ぎ期間を、計画文書に明示的に組み込む発想
| 自治体名 | 岩手県矢巾町 |
|---|---|
| 人口規模 | 約2.6万人(26,314人) |
| 中学校数 | 2校(矢巾中学校355人・矢巾北中学校344人/計699人) |
| 運営形態 | 矢巾町教育委員会が運営団体(令和6年度実証)。今後は町体育協会・総合型地域スポーツクラブ等を運営団体・実施主体として検討 |
| 対象競技 | 令和6年度実証はハンドボール1種目。推進計画は運動部11種目・文化部4種目の計23部活を対象 |
| 保護者負担額 | 令和6年度実証は無料(講師謝金を町が負担)。完全移行後は現状の部費相当額を想定 |
取り組みの概要
岩手県矢巾町は、令和6年12月に「矢巾町部活動地域移行推進協議会」を設置し、令和7年3月に「矢巾町部活動地域移行推進計画」を策定しました。町立中学校は矢巾中学校・矢巾北中学校の2校で、運動部11種目・文化部4種目の計23部が活動しています。
同町の中学校生徒数は平成26年度の911人から令和6年度は699人まで23.2%減少し、令和13年度には641人まで減る見通しです。推進計画は現状を「運動部については特定の種目に部員数の偏りが見られ、部活動自体がなかったり、少人数で団体戦への参加ができなかったりするところがあり、文化部については、各学校とも2〜3つ程度しかなく生徒の多様なニーズに応えることは難しい状況」と記しています。
一方で同町の部活動加入率は令和6年度で92.0%(男女別では矢巾中90.7%・93.8%、矢巾北中90.8%・92.5%。校外活動・無所属は699人中56人)と高く、部活動が生徒の生活に深く根付いた状態からの移行になります。町は平成30年7月に「矢巾町における部活動の在り方に関する方針」を策定(令和元年10月改訂)し、平成30年10月から中学校へ部活動指導員を配置してきた蓄積があります。
令和6年度はスポーツ庁「地域スポーツクラブ活動体制整備事業」の実証事業に取り組み、8月に各学校、9月に部活動顧問への聞き取り調査を実施したうえで、令和7年1月から矢巾北中学校ハンドボール部の休日活動に地域指導者1名を派遣する試験的な取り組みを行いました。
特徴的な取り組み
- 種目の事情を4パターンに分けた移行設計: 推進計画は「地域移行の考え方の例」として、①休日の活動が全くない種目、②休日は練習が主で大会や遠征がない種目、③休日の大会や遠征が多い種目、④現在学校部活動にない種目、の4分類を提示しました。②は休日だけ先に移し、大会・遠征は平日移行の完了後に地域クラブとして参加する。③は「休日のみの移行は困難であるため、平日と休日を合わせて移行する」と、休日先行の原則から外れることを計画段階で認めています。
- 引き継ぎ期間を制度として組み込む: ③のパターンについて「指導者が決まったら、一定期間、学校部活動に参加してもらい、顧問との打合せ・引継ぎを十分に行う」と明記しました。指導者が決まった時点で即移行せず、顧問と並走する期間を置く設計です。
- 受け皿候補を実名リストで公開: 推進計画は町体育協会登録団体26団体(陸上競技協会・卓球協会・スキー協会・カヌー協会・クレー射撃協会など)、総合型地域スポーツクラブ「楽々クラブ矢巾」、スポーツ少年団登録15団体、芸術文化協会登録33団体(舞踊・邦楽ダンス・器楽声楽・華道・文芸・書道・盆栽・手工芸)を実名で列挙し、「地域移行の運営団体・実施主体として役割を担うことが期待されます」としました。
- 令和10年度という現実的な到達目標: 「令和10年度までに各種目の移行方法の検討と地域クラブ活動の体制整備を進め、地域移行が可能な学校部活動から休日移行を進める」とし、体制整備の取組イメージを令和7年度(状況調査・調整)、令和8年度(可能な種目から移行開始)、令和10年度(全ての種目で休日移行または移行方法の検討を完了)と年度割で示しています。
- まず1部活で指導者派遣を試す: 令和7年1月12日から26日までの4回程度、矢巾北中学校ハンドボール部に地域指導者1名を派遣しました。ハンドボールB級審判資格を持つ指導者を町ハンドボール協会経由で紹介してもらい、参加費は無料、保険は既存の部活動で加入済みのものを活用しています。
課題と解決策
| 課題 | 解決策 |
|---|---|
| 少子化で部員数が規定に達せず休部した部活動があり、やりたい種目がないため校外のクラブチームで活動する生徒もいる | 推進計画で「現在学校部活動にない種目」を4分類の1つに位置付け、受入先となる実施主体との調整がとれ次第、生徒に募集を行う方針とした |
| 休日の大会や遠征が多い種目は、休日だけを切り離す移行が成り立たない | 「平日と休日を合わせて移行する」と計画で明記。移行後に同程度の大会参加や遠征を行う場合は、移動手段の確保や費用面の検討を要するとした |
| 受け皿となる団体の整備と指導者の確保が課題 | 学校や地域による推薦、教職員および公務員等の兼職兼業、スポーツ・文化芸術団体からの派遣、県の人材バンクの活用を検討。町体育協会・総合型地域スポーツクラブへ声掛けを行った |
| 完全移行後はクラブの活動経費・保険料・大会参加料などの保護者負担が発生する | 「現状の部費相当での金額設定が想定されますが、競技によって異なる場合も考えられることから、保護者に理解を得ながら設定していく」と計画に明記した |
| 活動場所の確保と施設使用料の負担 | 町の学校施設を含む公共施設等を基本とし、施設使用料は減免制度の適用を検討。学校施設を使用する際の鍵の開閉など必要な設備改修も検討対象とした |
| 移動手段・練習試合の負担 | 参加者負担を基本としつつ、スクールバスなどの活用が可能か検討する方針を示した |
成果・効果
令和6年度の実証事業では、中学校校長・PTA代表・町体育協会長・芸術文化協会長・総合型スポーツクラブ会長・スポーツ少年団代表・知識経験者を委員とする推進協議会を設置できたことが成果として挙げられています。町は「協議会を設置したことにより、学校、保護者、スポーツ、芸術団体の方々での意見交換により地域展開に係る問題や課題等認識することができた」と総括しました。
指導者の質については、町ハンドボール協会を通じてB級審判資格保有者1名の紹介を受けて専門的な指導者を配置できたほか、体育協会が実施するスポーツ指導者向け研修に参加し、ハラスメントに関する知識の習得など指導者の質の向上が図られたとしています。
一方で町は「今年度の取組では地域展開まで進むことができなかった」と率直に評価しています。実施できたのは1校の1部活に対する試験的な指導者派遣にとどまり、地域クラブとしての移行には至っていません。町は「1校の部活動に対してではあるが、試験的に休日の部活動に地域指導員を派遣して、部活動顧問の負担軽減を図ることができた」ことを成果と位置付け、課題としている指導者の確保と資金の確保について協議会の意見を聞きながら段階的に取り組む方針です。
推進計画は移行そのものを目的化しない姿勢を明示しており、「単に学校部活動を地域へ移行すること自体を目的化するのではなく、あらゆる関係者の連携・協働の下、子どもたちを含む地域全体で取組を進め、学校部活動の地域移行の取組を通して地域づくり・地域振興へ発展させていくことが重要」と記しています。
出典
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