【事例】埼玉県蕨市の部活動地域展開 ─ JR東日本スポーツへ委託し陸上・剣道・柔道・水泳の4種目を保険料800円のみで運営、1,323人の指導人材アンケートで「条件が合えば協力」層を可視化
・JR東日本スポーツへの委託で陸上・剣道・柔道・水泳の4種目を保険料年800円のみで運営した蕨市の体制
・保護者・教職員・市民1,323人の指導人材アンケートで、約3割の協力意向と文化分野の人材を把握した手法
・受益者負担を全休日部活動の一斉地域クラブ化時に同条件で導入する方針転換と、人材バンク構築の課題
| 自治体名 | 埼玉県蕨市 |
|---|---|
| 人口規模 | 約7.7万人(77,216人・令和7年度スポーツ庁成果報告書記載)。市域面積5.11km²で全国で最もコンパクトな市 |
| 中学校数 | 市立中学校3校(生徒1,451人。運動部34部・文化部10部、部活動加入率85.7%) |
| 運営形態 | 民間事業者(JR東日本スポーツ株式会社へ市が業務委託。地域クラブ活動の運営、指導者謝金の対応、保険加入、連絡体制の整備、連絡会議の開催、調査・分析を担当)。教育委員会の学校教育課が事業設計・検討委員会・学校との調整、生涯学習スポーツ課が関係団体との連携と人材発掘、首長部局の財政課が予算措置を担い、蕨市スポーツ協会・市内競技団体が指導者派遣に協力 |
| 対象競技 | 陸上、剣道、柔道、水泳の4種目(令和7年度。水泳は令和7年度から追加) |
| 保護者負担額 | スポーツ安全保険料の年800円のみ(4種目共通・令和7年度) |
取り組みの概要
蕨市の市立中学校3校では、任意加入でありながら生徒1,451人のうち85.7%(1,243人)が部活動に加入しています。一方で中学生年代の人口は令和11年の1,738人をピークに減少に転じ、令和18年には1,286人と7年間で約26%(452人)減る見込みです。教職員数に対して部活動数が多く複数顧問制の維持が難しいため、各校は部活動の統合や募集停止を段階的に進めています。市は令和4年度に行政担当課と中学校長による検討会議と意識調査を始め、令和5年度からは「蕨市における地域移行・地域連携検討委員会」を開きながら、スポーツ庁の実証事業で陸上・剣道・柔道の地域クラブ活動を始めました。令和7年度は水泳を加えた4種目を4月〜12月に実施し、あわせて「地域の指導人材」を掘り起こすための大規模なアンケート調査を行いました。
特徴的な取り組み
- 4種目を民間事業者1社に委託: JR東日本スポーツ株式会社が事業総括責任者・事業進行管理責任者・統括責任者・事業推進担当者を置き、学校との調整や生徒・保護者への説明を担っています。教育委員会の担当者は委託先と打ち合わせを重ね、クラブの視察、中学校の部活動保護者会や参加希望者向け説明会にも同行しました。委託先が他自治体で取り組む事例の情報提供も受けています。
- 種目ごとに異なる活動形態: 陸上は休日33回(1年13人・2年18人・3年3人、指導者2人)、剣道は休日31回(1年3人・2年6人・3年4人、指導者1人)、柔道は休日38回(1年4人・3年3人、指導者1人)で、主に8時〜12時に第一中学校・第二中学校などで活動しました。水泳は施設の事情で平日(木曜日)の17時〜19時に33回、民間スポーツクラブのジェクサー戸田公園などで行っています(1年3人・2年4人、指導者2人)。移動は徒歩・自転車で、大会には参加していません。
- 委託先のノウハウによる指導の充実: 剣道では専用アプリで保護者に活動の様子を動画配信し、陸上では各種目の専門指導者の助言で生徒の記録が伸びました。柔道は大会前に専門的な指導を受けられ、水泳は民間スポーツクラブの施設で安全な環境を確保しています。指導者は委託業者社員、地域の指導者、蕨市柔道連盟、中学校教諭です。
- 1,323人規模の「地域指導者アンケート」: 小・中学校の教職員と保護者、市役所職員、スポーツ・文化関係協会の構成員を対象に調査し、保護者726人・一般市民等373人・教職員224人の計1,323人が回答しました。協力依頼のため、定例校長会、市長、スポーツ協会理事会、スポーツ推進委員協議会、文化協会理事会、音楽家協会三役などの会議に担当者が直接出向いて趣旨を説明しています。
- 文化・芸術分野の人材も把握: スポーツの多様な種目の経験者に加え、吹奏楽87人・合唱51人のほか、ピアノ7人・プログラミング6人・語学6人など、少数でも専門的なスキルを持つ人材が市内にいることを数で把握しました。
課題と解決策
| 課題 | 解決策 |
|---|---|
| 民間の委託先、クラブの指導者、平日の部活動を指導する顧問の間で、地域クラブへの共通理解の不足や解釈の違いが生じた | 委託先・クラブ指導者・学校(顧問教諭)間で協議と情報共有の機会を設け、共通理解を図る |
| 学校施設の利用時に、急な天候不良での避難(鍵の準備不足)、体調不良者への対応(学校備品の一時借用)、体育着での参加による熱中症リスクなどの準備が足りなかった | 鍵の管理や備品の使用範囲など学校施設利用のルールを作り、熱中症対策を含めて事前の環境整備とマニュアル化を進める。参加人数に応じた指導体制も調整する |
| 発掘した人材と生徒・クラブを結ぶマッチングの仕組みが未整備で、研修による質の担保と謝金の財源確保も課題 | 協力意向を示した人に制度設計の進捗や募集要項を継続して伝え、市独自の「指導者人材バンク」への登録を促す仕組みを早期に作る。教育委員会・関係団体・委託先が連携して研修機会を設ける |
| 一部のクラブの参加者だけに先行して受益者負担を求めることの難しさが検討委員会で浮き彫りになった | 市内すべての休日部活動を一斉に地域クラブ化する体制が整った段階で、すべてを同じ条件として受益者負担を導入する方針に改める |
成果・効果
地域指導者アンケートでは、「ぜひ参加・協力したい」が21人(1.6%)、「条件が合えば協力したい」が392人(29.6%)で、前向きな層は31.2%でした。「難しい・希望しない」は910人(68.8%)です。市はこの結果を「条件が整えば協力できる」潜在的な指導人材が一定数いることを可視化できた成果と位置づけています。関係団体の会議では「地域の活性化につながるチャンス」と捉える前向きな質問も多く、前年度からの課題だった周知不足も、説明会や保護者会への参加、関係団体への直接の説明で前進したとしています。一方で回答には、一般市民・外部指導者から「待遇面のみを整え、これらを丸投げされての地域展開では誰も引き受け手はいないと思いますし、私も引き受けられません」、保護者から「中学生を指導する上での研修やルール作り、トラブル時の対応を明確にし、保護者にも分かりやすく伝えてほしいです」という声も寄せられました。令和7年度は新規クラブの参加申込が少なく、既存部活動からの参加も低調でした。また、関係団体への協力依頼は全面実施の時期やロードマップが固まりきっていない状態での折衝となったため、市は早期に具体的な方針を策定して関係団体に示すとしています。令和8年度は人材バンクの構築に向けた設計と、参加者・指導者情報や活動状況を一元管理するシステムの導入検討を進め、休日はスポーツ系をできる限り早期に地域クラブ活動へ移すとともに、文化芸術系の検討も始める計画です。平日は休日の全面実施を見据えて時期を捉えて検討を始め、当面は部活動として活動します。
出典
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