【事例】島根県江津市の部活動地域展開 ─ 柔道クラブの送迎に年209万円・全校展開には約5,000万円が必要と試算
・スクールバス転用「クラブ便」の実費は2校間で年209万円、全校展開には約5,000万円という試算
・部活動後援会費(4校平均22,050円)を整理して会費原資に付け替えた負担増なしの財源設計
・柔道クラブ収入の91.2%が国の委託費という、低廉な会費を支える構造の実像
| 自治体名 | 島根県江津市 |
|---|---|
| 人口規模 | 21,325人(令和7年度実証事業報告書時点/面積269平方キロメートル) |
| 中学校数 | 公立中学校4校・生徒481人(運動部28部) |
| 運営形態 | 地域クラブが運営主体・実施主体(江津柔道クラブ濱岡塾/女子バスケットクラブAZALEAS)。江津市教育委員会学校教育課にコーディネーターを配置し、部活動地域連携検討協議会が諮問機関として機能する |
| 対象競技 | 柔道(令和7年度創設)、バスケットボール(令和8年度創設予定) |
| 保護者負担額 | 江津柔道クラブ濱岡塾=年額1,000円(保険料相当)、女子バスケットクラブAZALEAS=年額3,000円。市は持続可能な水準を月額2,000円程度と試算 |
取り組みの概要
江津市は令和6年に「部活動地域連携検討協議会」を設置して方針を策定し、令和7年度の実証事業で「江津柔道クラブ濱岡塾」を令和7年4月に始動させました。市内4中学校から参加者を募り、活動場所は江津中学校の柔道場です。平日4回・休日1回の活動で、参加生徒は1年生4名・2年生3名・3年生2名となっています。
市が実証の出発点に置いたのは4つの課題です。①在籍校からクラブ活動場所への生徒の輸送、②指導者の確保、③財源の確保、④運営体制の整備。報告書はこの4点それぞれについて、実際にいくらかかったのかを決算額で開示しています。
背景には学校側の限界があります。市教育委員会が令和6年に実施した教職員調査では、部活動の指導運営を「負担」あるいは「負担だがやらなければならない」と感じている教職員が全体の約7割にのぼりました。小規模校では集団競技のチーム編成ができず個人競技の部のみが設置されている学校もあり、希望する部活動がないことを理由に指定校変更を申請して校区外の中学校へ進学する生徒が出ています。市はこれが学校の統廃合にも影響すると報告書に明記しています。
特徴的な取り組み
- スクールバスを転用した「クラブ便」の運行: 在籍校からクラブ活動場所への移動を保護者に負わせないため、スクールバス運行会社に委託して平日4日・休日1日の「柔道クラブ便」を運行しました。活動時間を部活動の時間帯に合わせることで、保護者の送迎負担を発生させない設計です。
- 移動費を実額で開示し、全校展開の必要額まで試算: 令和7年4月〜令和8年2月の生徒輸送費(柔道クラブ便)は2,096,416円。現在の運行は参加生徒の在籍校が市内4校のうち2校であるため2校間にとどまります。市は複数校からの輸送を可能にするには約50,000,000円の予算が必要と試算し、財源確保が課題であると報告書に記載しました。
- 部活動後援会費を整理して会費原資に充てる: 市内4中学校は保護者から部活動後援会費(教育後援会費)を徴収しています。市中学校長会と協議し、クラブに参加する生徒からはこの費用を徴収せず、その分をクラブの参加費に充てる整理を行いました。4校の後援会費は江津中18,000円・青陵中20,400円・江東中19,800円・桜江中30,000円で、平均22,050円(月額1,837.5円)です。
- 兼職兼業とフレックスタイム制をセットで整備: 意欲のある教職員がクラブ指導に携われるよう、兼職兼業に加えてフレックスタイム制の制度も整えました。その結果、令和7年度は1名、令和8年度は2名の教職員がクラブ指導に携わることになっています。
- 休日先行ではなく平日・休日を一体で移行: 市スポーツ協会へのアンケートで「平日に受け皿となることは難しい」「休日の大会や練習試合がほとんどで、平日は部活・休日のみ引率指導という形は難しい」との回答を得たため、平日・休日を一体として地域展開を行う方針としました。
- 廃部の判断手続きを協議会で制度化: 各学校の部活動の廃部について、検討協議会が学校からの諮問を受けて答申を行い、その答申をもとに校長が最終判断を行うと整理しました。
課題と解決策
| 課題 | 解決策 |
|---|---|
| 在籍校からクラブ活動場所までの生徒の輸送手段がない | スクールバス運行会社に委託して平日4日・休日1日の「クラブ便」を運行し、活動時間を部活動の時間帯に合わせて保護者の送迎負担を発生させない。ただし2校間で年209万円を要し、全校展開には約5,000万円が必要と試算 |
| クラブ運営の財源が公費に依存している | 柔道クラブの収入1,206,000円のうち公費(委託費)が1,100,000円で91.2%を占める。市は「認定地域クラブ補助金要綱」の作成、中体連補助の認定クラブへの適用、応援企業の募集やふるさと納税の活用を検討する |
| 指導者の量と質の確保 | 教職員の兼職兼業とフレックスタイム制を整備(令和7年度1名・令和8年度2名)。小学校・高等学校・特別支援学校・短期大学・市役所職員へも協力を依頼し、市教委主催の研修を実施する |
| 人材バンク方式が中学生の指導者確保になじまない | 登録者の資質をどう判断するかという課題が大きいため人材バンクは採用せず、指導者資格の取得促進と既存の部活動支援人材への協力依頼で確保する方針とした |
| 会費を低く抑えているため運営費が賄えない | 令和7年度は保護者負担と経済的困窮家庭への配慮から年額1,000円としたが、持続可能な運営には月額2,000円程度が必要と試算。後援会費の整理と中体連大会負担金の補助で徴収可能な状況を整えた |
| 教育委員会の兼務コーディネーターだけでは推進体制が足りない | 「認定地域クラブ」は責任の所在を含め市直営型が望ましいとの協議会意見を踏まえ、教育委員会内への「部活動改革室」等の設置と専従職員の配置を検討する |
成果・効果
令和7年度に創設された江津柔道クラブ濱岡塾では、県中学総体で優勝し、福岡県で開催された全国中学校体育大会に1名が出場しました。報告書はこの成果の要因として、指導者3名全員が全日本柔道連盟公認指導者資格を有していること、および同クラブが以前から小学生対象の柔道教室を運営しており、中学校入学後も小学校時代と同じ指導者のもとで活動を継続できる小中一貫の指導体制にあることを挙げています。
費用構造も具体的に開示されました。柔道クラブの収入1,206,000円の内訳は、公費(委託費)1,100,000円=約91.2%、学校助成金60,000円=約5.0%、大会参加補助32,000円=約2.7%、市柔道連盟助成5,000円=約0.4%、会費9,000円=約0.7%です。支出は指導者謝金823,000円、引率旅費238,312円、生徒輸送費2,096,416円、検討協議会委員旅費37,500円となっています。
一方で限界も明確です。市内4中学校から参加者を募りましたが、実際に参加者が出たのは江津中学校と青陵中学校の2校で、江東中学校と桜江中学校からは参加者がありませんでした。市は2030年の国民スポーツ大会・全国障害者スポーツ大会や統合小学校の建設を控えており、部活動の地域展開に関する予算確保は難しい状況にあるとしています。令和8年度には「江津バスケットボールクラブ」の創設が予定されています。
出典
→ 原文: スポーツ庁「令和7年度地域スポーツクラブ活動体制整備事業(地域スポーツクラブ活動への移行に向けた実証事業)」島根県江津市 実証事業報告書(PDF)
→ 掲載元: スポーツ庁「事例集・全国の取組紹介」島根県
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