【事例】岩手県宮古市の部活動地域展開 ─ 「体験会」方式と3方面送迎バスで広域市内をつなぐ試行モデル
・岩手県宮古市が広域市内で4種目を試行した「体験会」方式の設計
・送迎バス3方面運行と冬季屋内施設活用のリアルな運用結果
・「体験会」表現で関係者の不安を抑えつつ参加意向87%を引き出した方法
| 自治体名 | 岩手県宮古市 |
|---|---|
| 人口規模 | 約4.7万人(2020年国勢調査) |
| 中学校数 | 11校 |
| 運営形態 | 市町村運営型(地域団体・人材活用型)/教育委員会が事務局となり既存スクール・総合型クラブ・競技協会と種目ごとに連携 |
| 対象競技 | ラグビーフットボール、陸上競技、軟式野球、女子バスケットボール(R5実証) |
| 保護者負担額 | 参加費0円(保険料のみ:ラグビー216円/日、その他108円/日を市負担) |
取り組みの概要
岩手県宮古市は2020年国勢調査時点で約4.7万人の市域が広い自治体です。中学校11校が市内全域に点在し、生徒の移動手段確保と冬季の活動場所確保が部活動地域移行の大きな課題でした。市教育委員会は令和5年6月1日に「宮古市部活動地域移行検討委員会」(委員10名)を設置し、教育長・学校教育・体育スポーツ・文化・社会教育・PTAの代表で構成。スポーツ庁の地域スポーツクラブ活動体制整備事業(令和5~7年度の3年間で計約450万円配分予定)を活用し、令和6年1月~2月に「冬の部活動を楽しもう!!」をテーマに4種目の試行版練習会を開催しました。
特徴的な取り組み
- 「体験会」表現で不安を払拭: 現役部活生・保護者に「すぐ部活動がなくなる」という誤解を与えないため、実証事業を「休日の地域クラブ活動の体験会」と表現し、新たな選択肢が増えるという位置づけを強調しました。
- 4種目で異なる運営団体タイプを比較検証: ラグビーは既存スクール(宮古市ラグビー協会/JRFU C級コーチ3名)、陸上は総合型地域スポーツクラブ(シーアリーナスポーツクラブ)、軟式野球は地域団体+部活指導員+教員の連携型、女子バスケは競技協会(宮古市バスケットボール協会)と、種目ごとに受け皿パターンを変えて検証。
- 3方面送迎バスで広域市内をカバー: 北方面・南方面・西方面から3台の送迎バスを運行。北側ルートは山口中・崎山中・第二中を経由、南側ルートは津軽石中・新里中、西側ルートは川井中・新里中を経由する形で、合併で広域化した市域に対応。
- 冬季の屋内会場活用: 軟式野球はグリーンピア三陸みやこ多目的アリーナ(民間人工芝施設)で開催。ラグビーは宮古市民総合体育館、陸上は宮古運動公園陸上競技場と、屋内・屋外を使い分けて冬季の天候不良に対応。
課題と解決策
| 課題 | 解決策 |
|---|---|
| 生徒・保護者・教員の地域クラブ活動への理解不足と「部活動が直ぐなくなる」誤解 | 実証事業を「体験会」と表現し、新たに機会が増えることを強調。検討委員会で段階的協議 |
| 市域が広く、生徒の移動手段確保が困難 | 北・南・西3方面から送迎バスを運行(参加費0円・市負担)。公共交通乗継を想定し午後2時開始 |
| 冬季は野球場閉鎖・グラウンド使用困難 | 民間人工芝アリーナ・市民総合体育館・陸上競技場の3施設を併用。坂道ダッシュなど屋外地形を活用 |
| 受け皿団体が「本業の傍ら」運営になり主体的取組が難しい | 競技団体・地域団体・総合型クラブを種目ごとに複数候補化。市が事業設計・連絡調整・謝礼・保険を一括負担 |
成果・効果
令和6年1月~2月の試行で4種目練習会を開催し、参加者全体の70%が「満足」、追加で22%が「やや満足」と回答。「休日の部活動が地域クラブ活動に移行した場合参加するか」の問いに60%が「参加したい」、27%が「どちらかというと参加したい」と回答し、合計87%の前向きな反応を得ました。種目別では陸上競技の満足度が100%(参加3名)、ラグビーが満足86%、軟式野球が満足87%。一方で参加者数はラグビー9名、陸上3名と少数にとどまり、認知度向上が次年度以降の課題として整理されました。
出典
→ 原文: 岩手県・令和5年度地域スポーツクラブ活動体制整備事業 成果報告書(スポーツ庁)
→ 関連: 宮古市における部活動の在り方に関する方針の改訂について(宮古市公式)
💡 部活動地域展開ナビの視点:ここがポイント
宮古市の事例で最も注目すべきは、「実証事業=体験会」という言い換え戦略です。多くの自治体で地域移行が反発を受ける最大の理由は、現役の部活生・保護者・教員が「自分たちの部活動が突然奪われる」という不安を抱くこと。これに対して宮古市は、移行ありきで進めるのではなく、まずは「新しい選択肢が一つ増える」体験会として4種目を試行し、関係者の感情を慎重に取り扱いました。アンケートの満足度70%・参加意向87%という高い結果は、押し付けではなく体験から共感を生む順序を踏んだ証拠といえます。
もう一つ重要なのが、種目ごとに異なる受け皿パターンを並行検証している点です。既存スクール型(ラグビー)・総合型クラブ型(陸上)・複合連携型(軟式野球)・競技協会型(女子バスケ)と、4種目で4タイプを比較。1種目で1モデルに絞らず、種目特性に合った運営団体を見極める段階を設けることで、令和6年度以降の本格移行で「種目に合わない無理な押し付け」を避けられる設計になっています。
📋 他地域が導入する際の想定ハードルと解決策
広域合併市町村で送迎バスを運行する場合、コスト対効果が課題になります。宮古市の実証では送迎バス利用率が全体の7%にとどまり、保護者送迎が70%を占めました。バスの借り上げ料は高額なため、宮古市自身も「公共交通利用促進と組み合わせた『部活パス』的な仕組み」の検討を今後の課題としています。導入を検討する自治体は、初年度は周知のため運行しつつ、2年目以降は需要が高い1~2方面に絞る・公共交通定期券補助に切り替えるなど、段階的に最適化する設計を最初から織り込むことを推奨します。また「体験会」表現は早期段階で関係者の不安を抑える有効策ですが、移行スケジュールが見えない状況で長期化すると逆に「いつまで体験なのか」という不信を招くため、検討委員会で「試行→本格実施」の判断時期を併せて宣言しておくことが重要です。
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