【事例】山梨県韮崎市の部活動地域展開 ─ 教育委員会が運営主体となりモデル校の全運動部9部を一斉移行・会費は「参加10人の壁」を収支試算で可視化
・教育委員会が運営主体となりモデル校1校の全運動部9部を一斉に地域クラブ化した進め方
・指導者報酬1,600円/時から積み上げた収支試算と「参加10人未満は持続困難」という判断基準
・移行初年度に兼職兼業教員が多いと「地域クラブと気づかれない」問題への具体的な歯止め
| 自治体名 | 山梨県韮崎市 |
|---|---|
| 人口規模 | 約2.8万人(27,723人・2024年度報告書時点) |
| 中学校数 | 2校(韮崎東中学校・韮崎西中学校/生徒620人・18部活動) |
| 運営形態 | 韮崎市教育委員会が運営団体・実施主体(将来的に地域スポーツコミッション・総合型地域スポーツクラブ・民間事業者等への展開を想定) |
| 対象競技 | 軟式野球、サッカー、陸上、ソフトテニス(男女)、バスケットボール(男女)、女子バレーボール、剣道(令和6年度・9クラブ) |
| 保護者負担額 | 令和7年度末まで無料。令和8年度から受益者負担金の徴収を予定(市の試算では月額2,000円前後が適当) |
取り組みの概要
山梨県韮崎市は、令和6年度に部活動の地域展開へ本格着手し、1年で「モデル校の全運動部活動を休日は地域クラブ活動に切り替える」ところまで到達しました。4月に中学校の退職教員を部活動コーディネーターとして採用し、5月23日に学校・スポーツ協会・スポーツ少年団・PTA・総合型地域スポーツクラブ・文化振興協会などで構成する韮崎市立中学校部活動地域移行協議会を設置。同日付で「韮崎市新たな地域クラブ活動方針」を策定し、「市が設置する学校に係る部活動の方針」も改訂しました。
8月には韮崎市立小、中学校処務規程を一部改正して教職員の兼職兼業を可能にし、9月に指導者説明会・委嘱・参加者募集を実施。10月19日から、モデル校である韮崎東中学校の全運動部活動9部を休日の地域クラブ活動へ移行しています。運営団体・実施主体は市教育委員会で、指導者の委嘱・保険加入・報酬支払・苦情対応まで市が直接担う形です。
市の方針では、令和7年度までは学校部活動と地域クラブ活動が併存する形をとり、令和8年度から休日の学校部活動を廃止して地域クラブ活動の完全実施を目指すとしています。令和7年10月からは市内全2校で休日の地域クラブ活動を実施する計画です。
特徴的な取り組み
- 「学校単位で一斉」の移行設計と、数値で切った達成目標: 種目を選んで少数から始めるのではなく、モデル校1校の運動部を丸ごと切り替えました。実証事業の達成目標は「2月末時点で休日部活動に従事する指導教員数を0とする(兼職兼業希望職員は除く)」と数値で設定され、10月の一斉移行によって達成されています。
- 「参加10人の壁」を収支試算で可視化: 指導者報酬を1時間1,600円、活動を月4日・1回3時間として1人あたり年間230,400円と置き、会場借料・消耗品費・保険料・アプリ使用料を積み上げて1クラブのランニングコストを算出しました。参加10名で指導者1名なら受益者負担は月額2,320円、20名で指導者2名なら月額2,237円となり、市内の総合型地域スポーツクラブのサッカー教室が1回500円程度であることを踏まえて月額2,000円前後が適当と判断。その結果「参加者が10人を下回るクラブは持続可能な運営が困難」という基準を明文化しました。
- 収支を3層に分けた負担区分: 運営主体の収支構造を「スポーツ活動費」「事務局運営費」などに分け、生徒に直接関わるスポーツ活動費を受益者負担の対象、事務局運営費は国費や市の自主財源で賄う整理をしました。徴収方法も「1か月単位で申込者全員が負担する方式」と「1回参加するごとに参加者のみが負担する方式」の両面で検証し、後者は参加率が低いと1人あたりの負担が跳ね上がり収益見込みも立たないため採用しない結論を出しています。
- 私的な連絡を構造的に排除した部活動アプリ: 指導者と生徒が1対1でメッセージを送れない仕様のアプリを導入し、教育委員会が管理者権限を持って監視する形にしました。2月末時点の利用者は302名(指導者26名・生徒152名・保護者124名)。方針でも、指導者から生徒・保護者への連絡は教育委員会が指定した安心メールまたはアプリでのみ可能と定めています。
- 大学との公学連携による指導者確保: 「山梨学院大学発やまなしスポーツ指導者養成プロジェクト」の養成研修を受けた大学生3名を女子バレーボールの指導者として採用しました。県の人材バンク(登録127名/20代が64名で最多)も併用しています。
- 兼職兼業の制度整備で「指導」と「休暇」を選べるようにした: 処務規程の改正により12名が兼職兼業の許可を得て地域クラブ指導者として従事。指導を望む教員は続けられ、望まない教員は休日業務から離れられる形を作りました。
課題と解決策
| 課題 | 解決策 |
|---|---|
| 兼職兼業の許可を得た顧問教諭がそのまま指導するクラブが多く、生徒・保護者が「地域クラブ活動が始まっている」ことを認識していない | 全クラブへ地域の指導者を1名以上配置し、顧問から地域指導者へ緩やかに指導の主体を移す(ソフトランディング)方針を採用。令和6年度は9クラブ中5クラブで地域の指導者を採用した |
| 従来の部活動と指導形式が変わらないため、保護者から受益者負担金の徴収に理解を得にくい | 合同クラブ化と地域指導者の配置を加速して「部活動からの変化」を実感できる活動にしたうえで、令和8年度から徴収できるよう体制を整備。方針では経済的に困窮する世帯の負担軽減のための財政支援を検討・実施するとしている |
| 受け皿となる地域団体の体力が弱い(韮崎スポーツクラブの会員数は449名で全盛期の半数以下、スポーツ少年団は20単位団から11単位団に減少し、サッカーの9単位団はすべて廃止) | 当面は市教育委員会が運営主体を担い、将来的に地域スポーツコミッション・総合型地域スポーツクラブ・クラブチーム・民間事業者・文化芸術団体等へ担い手を広げる体制整備を進める |
| 休日の施設の鍵の開錠・施錠、スケジュール周知、指導者の実績報告の取りまとめで顧問や学校事務職に新たな負担が生じた | 鍵の管理を地域の指導者へシフトし、スマートロックやキーボックスを含む施設管理ルールの改善を検討。実績報告はICTを活用した提出方法を協議している |
| アプリを使わず従来の紙ベースで連絡を続けるクラブがあり、運営主体である教育委員会が開催日時を事前に把握できない事態が生じた | 全クラブのスケジュール周知についてアプリの使用を必須とするなど、運用の徹底を図る |
成果・効果
働き方改革の面では、平日の運動部活動の顧問18名のうち、兼職兼業の許可で指導を継続する教員を除いた6名が休日の部活動業務から解放されました。市は、9クラブ中5クラブで地域の指導者を採用しており、兼職兼業教職員から地域の指導者へ主体的な指導権が移るにつれてさらに働き方改革が進む見込みだとしています。
参加した中学生17人へのアンケートでは70.6%が「参加して良かった」と回答し、10名が「技術が向上した」と答えました。保護者69人へのアンケートでも65.2%が「参加して良かった」と回答しています。ただし生徒・保護者いずれも「どちらとも言えない」が3割程度あり、市は地域展開の初期段階で兼職兼業の顧問教諭が多くのクラブで指導している状況が要因だと分析しています。
保護者からは「見る人が増えると細かく見てもらえている気がする」「練習を通じて他校の生徒と交流することができた」という声が、指導者からは「この事業の趣旨を考えると学校から切り離すべき」「大会への参加を認め、参加する生徒から会費をしっかりととり受益者負担で運営していく」という意見が寄せられました。学校施設の活用面では、9クラブの全81回の活動のうち約80%が学校施設での実施となり、教育委員会が運営団体であることから学校備品・消耗品を地域クラブ活動で使用できた点も円滑な移行につながっています。
出典
→ 原文: スポーツ庁「令和6年度 地域スポーツクラブ活動体制整備事業 成果報告書(山梨県韮崎市)」
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