【事例】東京都杉並区の部活動地域展開 ─ 野球部なし11校の現実から3校合同拠点クラブへ・民間委託と複数種目選択制を組み合わせた段階移行設計
・東京都杉並区の地域展開で直面した課題と解決策
・運営主体の選択背景と財源確保の工夫
・他の自治体が参考にすべき視点
| 自治体名 | 東京都杉並区 |
|---|---|
| 人口規模 | 約57.7万人(2020年国勢調査) |
| 中学校数 | 区立中学校23校 |
| 運営形態 | 民間事業者委託(高円寺学園中学部モデル・令和4〜6年度)→令和7・8年度は高円寺学園・杉森中・高南中の3校による拠点校方式合同部活動。部活動指導員(区会計年度任用職員)・外部指導員(ボランティア)との組合せで段階的に体制整備 |
| 対象競技 | スポーツ・文化芸術の全種目(運動部166部、文化部114部・令和4年度時点) |
| 保護者負担額 | 調査時点で未公表 |
取り組みの概要
東京都杉並区教育委員会は、令和6年(2024年)5月に「学校部活動の地域連携・地域移行に関する推進計画」を策定しました。計画期間は令和6〜8年度(2024〜2026年度)です。令和4年度(2022年度)時点で区立中学校23校のうち野球部が存在しない学校が11校、野球部の競技実施可能人数に満たない学校が3校という実態があり、既に学校単位での集団競技の運営が困難な状況が生じていました。また、区立中学校教員の月平均時間外勤務は約39時間、年度内に月80時間を超えた教員の割合は17%に上り、部活動を担う教員の負担軽減も急務でした。計画では、地域連携(部活動指導員・外部指導員の配置拡充)と地域移行(民間事業者委託・拠点校型合同部活動)の両輪で段階的に取り組むことを基本姿勢としています。
特徴的な取り組み
- 高円寺学園中学部でのモデル事業(民間事業者委託): 令和4・5年度(2022・2023年度)に高円寺学園中学部で「中学校の新たな部活動支援業務」としてモデル事業を実施。民間事業者が全運動部活動の技術指導・大会引率・審判を担当し、教員の部活動負担を軽減しました。令和6年度も同校で継続実施し、知見と課題を蓄積しています。
- 3校拠点型合同部活動(令和7・8年度): 令和7・8年度は、高円寺学園中学部・杉森中学校・高南中学校の3校でスポーツクラブを設置し、3校の生徒が参加できる拠点校方式の合同部活動を実施します。校庭では軟式野球クラブ・硬式テニスクラブ・サッカークラブ、体育館ではバドミントンクラブ・卓球クラブ・バスケットボールクラブの計6クラブを展開。すべてのクラブに3校の生徒が参加できます。
- 複数種目選択制の設計: 複数の種目を求める生徒が、曜日ごとに別の種目を選択できる制度を設計。一種目に限らず多様なスポーツに親しめる環境を提供します。
- 部活動指導員の計画的拡充: 部活動指導員(区の会計年度任用職員)を令和5年度の累計8人から令和8年度には累計20人へ段階的に拡充します。毎年4人ずつ増員するスケジュールを計画書に明示しています。
- 外部指導員の配置(ボランティア): 地域の人がボランティアとして運動部・文化部の指導補助を実施。令和6年度以降、年間410回/校の配置規模を維持します。
- 吹奏楽ワークショップ(NPO法人連携): 部員数が減少傾向にある吹奏楽部については、NPO法人との協働提案事業として、プロ指導者の下で器楽演奏の基礎を学び合奏体験を行う「吹奏楽ワークショップ」を実施。文化部活動の地域展開に向けた知見を蓄積しています。
- 横断的な検討委員会の設置: 令和5年度に「杉並区における中学校部活動の在り方検討委員会」を設置。学校教育部門だけでなく生涯学習・スポーツ振興部門も構成員として参加し、部活動の地域連携・地域移行について横断的に検討を続けています。
課題と解決策
| 課題 | 解決策 |
|---|---|
| 野球部が区立23校中11校に存在せず、単独校での集団競技の運営が困難 | 高円寺学園・杉森中・高南中の3校による拠点校方式合同部活動を令和7年度から実施し、学校単位を超えた活動規模を確保 |
| 教員の長時間勤務が深刻(月平均残業39時間・月80時間超が17%) | 民間事業者委託で高円寺学園の全運動部技術指導・大会引率・審判を代替。部活動指導員を令和8年度までに累計20人へ計画的に増員 |
| 一種目のみの部活動では生徒の多様なスポーツニーズに応えられない | 曜日ごとに別の種目を選択できる複数種目選択制を設計し、多様なスポーツに親しめる環境を整備 |
| 吹奏楽部等の文化部活動の地域移行先確保が困難 | NPO法人との協働で「吹奏楽ワークショップ」を実施し、文化部活動の地域クラブ活動の在り方を検討委員会で継続検討 |
成果・効果
令和4・5年度の高円寺学園中学部モデル事業を通じて、民間事業者が全運動部活動の指導・大会引率・審判を担う体制が実証されました。令和6年5月の推進計画策定により、令和6〜8年度の3年間における取組内容と目標が明確化されました。部活動指導員の計画的拡充(令和8年度までに累計20人)と外部指導員(年間410回/校)の組合せによる地域連携体制が整備されつつあります。PTA協議会のアンケート調査では、生徒が運動部活動に求めることとして「身体を動かして楽しむ環境」75%、「スポーツの技術向上」59%、「人間関係を作る環境」56%が上位に挙がっており、3校合同拠点クラブはこれらのニーズを満たす設計となっています。
出典
→ 原文: 杉並区公式ホームページ「学校部活動の地域連携・地域移行に関する推進計画等」(令和6年5月 杉並区教育委員会)
💡 部活動地域展開ナビの視点:ここがポイント
杉並区の最大の特徴は「野球部なし11校」という数値が示す課題の切迫感です。23区内であっても少子化による集団競技の存続困難は既に現実となっており、令和4年度時点で野球部が存在しない学校が全校数の約半数に迫っています。この現実を計画書に数値で明記することで、地域クラブ活動への移行を「いずれ考えるべき課題」ではなく「今対応しなければ活動自体がなくなる緊急課題」として位置づけています。都市部であっても少子化の影響は集団競技に先行して現れるという事実は、同規模の区市町村にも参考になります。
高円寺学園モデル(令和4・5年度)→継続実施(令和6年度)→3校拠点型合同クラブ(令和7・8年度)という段階的な発展設計も注目されます。1校のモデル事業で課題と効果を検証し、その知見を活かして複数校に展開するというアプローチは、大規模自治体が全校一斉展開に踏み切る前の現実的な方法です。「失敗できない」プレッシャーが大きい都市型の行政組織でも採用しやすい慎重な段階設計といえます。
「曜日ごとに別の種目を選択できる複数種目選択制」という設計思想も重要です。従来の部活動は単一競技への継続参加が前提でしたが、都市部の中学生の中には「競技の専門性を高めるより多様なスポーツを楽しみたい」というニーズも少なくありません。生涯スポーツの観点から複数種目への参加を制度的に保障するこの発想は、今後の地域クラブ活動設計において広く取り入れられる可能性があります。
📋 他地域が導入する際の想定ハードルと解決策
杉並区モデルで最も参考になるのは「モデル校での先行実施→複数校への展開」というステップ設計です。全校一斉の民間委託や地域移行は現場の反発を招きやすいですが、1校または1エリアで先行実施し課題を抽出してから展開するアプローチは、学校現場・保護者・地域団体の理解を得やすい方法です。また、部活動指導員の「毎年4人増員・累計20人へ」という明確な数値目標と増員スケジュールの提示は、他自治体でも参考にできる計画の書き方です。目標人数と時期を明記することで、予算措置・採用計画・育成計画が逆算して立てやすくなります。
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